LOBBY口上

演劇は集団で創る。全員生き生きしていて、それぞれが自由で、同時に、全体に独特の雰囲気があるものを見たいし創りたい。言うは易しで、難しい。滅多にない。劇場で、見たことはあるし、創ったこともある。でも稀有だ。孤独を真剣に生きている人々の飛翔と、そこにいる全員を貫く空間の同居を見たくて、それだけが見たくて、僕は演劇をやっているのに、出会うのは、偶然だとしか思えない。人為的にそれを作り出すのは不可能なんじゃないか、とすれば劇作家なんて肩書きは悪い冗談なんじゃないか、と思っていた。ところが、8年前、確実に、常に、自由と空間の両立を成し遂げているものがあることに気がついて、衝撃を受けた。町である。


行ったことのある駅前は、雰囲気で思い出すものだ。それぞれの町には、それぞれの町の空気があって、それは間違いなくそこに住む人々が作りだしている。でも、住人は勝手に生きているだけだ。しかも割と頑丈で、住人がどんどん入れ替わっても、かすかに生き残っていく。まさに、集団創作であって、つまり、まちとは、演劇なのだ。その生成の秘密を知りたくて、劇場を離れ、5年間、町をさまよい、創作を続けた。秘密は経済にあるとか、国家にあるとか、愛にあるとか、テキストにあるとか、計画にあるとか、コミュニケーションにあるとか、いろいろな人といろいろな話をした。今、僕は、その秘密は、やっぱり、各自が創造的であること、孤独を楽しむことにあると、当たり前のことを思っている。スケッチブックとクレヨンに集中する子供たちのように。


今回は、僕の創作ワークショップ初級「まちから作品をつくる」を受講してくれた皆様によるポタライブ作品を5本ご用意しました。このワークショップは、5年間で僕が町の中で知った創作の方法の中で、いついかなるシチュエーションでも(つまり、劇場だろうが、どのジャンルだろうが、街中だろうが、まあ、なんでもかんでも)使えそうだと信じるにいたったことを試して共有する場です。その中から良い作品を選んだ、ということではなくて、町の住人たちのように、あるいは、こどものように勝手な人を選びました。全部ぜんぜん違います。けれども、駒場の町は変わらずそこにあります。8月に、1ヶ月、アゴラのロビーで、同じことをやる予定でいます。あなたも、この子供部屋の、つまり、駒場のまちの住人になりませんか。まちのように、幼稚園のように、「創造の場の玄関(= LOBBY)」は、孤独を愛する全ての人とあらゆる行為に扉を開いています。ご興味のある方からのご連絡を、お待ちしております。


2007年2月 岸井大輔。